キースイッチ ベストプラクティス(2019年7月版)

自作キーボードコミュニティで人気のあるキースイッチや潤滑剤、潤滑(lube/ルブ)の仕方について、ベストプラクティスとしてまとめます。

自作キーボードをつくるときに、どのキースイッチを選ぶのが良いのか悩んでしまうという方は多いのではないでしょうか。国内の大手ショップである遊舎工房さんでも 50 種類以上のスイッチを取り扱っていますから、そのうちの一つを選ぶというのも、なかなか難しい話になります。キーボードの打ち心地のほとんどがキースイッチによって決定されますから、その選択は重要です。

そこで、本ガイドでは「どのようなキースイッチを選択すればいいか」「どのように潤滑(ルブ)すればいいか」についてベストプラクティスをまとめます。

キースイッチの調整には多くのやり方があり、何が正解ということはありません。とはいえ、多くの選択肢を提示するだけでは、何をどうすればよいのか迷ってしまうことになります。このガイドではコミュニティで人気があり、標準的な手法について、具体的に説明をすることを目指しています。

なお、ビンテージキースイッチや共同購入だけで販売されたものなど、入手が難しいものについては、この解説では取り扱いません。クリッキースイッチについても、私の知見がないためここでは扱いません。

また、読者の方は、市販のメカニカルキーボードを購入できるくらいには、キーボードの知識があるものとします。一般的な用語については他サイトで調べてください。

スイッチ各部の名称

最初に、キースイッチの各部の名称について簡単に説明をします。 Cherry MX 互換のキースイッチは、以下のパーツから成ります。リーフについては、ボトムハウジングに取り付けられているため、潤滑をするときに取り外すことはありません。

トップハウジング
キースイッチのケースの上の部分。
ボトムハウジング
キースイッチのケースの下の部分。
リーフ
ボトムハウジングの板ばねのこと。
ステム
キースイッチの軸の部品。特にリーフと接触する部分をステムの脚(leg)という。
スプリング
キースイッチ内部の圧縮コイルばねのこと。

キースイッチ選び

キースイッチの評価ポイントは、ぐらつき、スムースさ、音などです。それに加えてタクタイルスイッチでは、タクタイルの特性が評価の対象となります。

キースイッチ選びの選択肢は、リニアスイッチなのかタクタイルスイッチなのか、静音スイッチがよいのか、そうでないのか、それによって選択肢が決まります。コミュニティで評価の高いスイッチは以下のスイッチです。下記のスイッチであれば、間違いのない選択です。

  • リニア
    • 静音なし … Zeal Tealios / Gateron Ink / NovelKeys Cream
    • 静音あり … Zeal Healios / Gateron Silent Ink
  • タクタイル
    • 静音なし … Zeal Zealios
    • 静音あり … Zeal Zilents

リニアスイッチは、キーボードコミュニティでも人気の高いタイプなので多くの選択肢があります。

Zeal Tealios は、評価が高いスイッチのひとつです。 Zeal Generation Inc. の扱うスイッチは、高価格かつ高品質で定評があります。遊舎工房でも取り扱いがありますので、入手も容易です。製造は Gateron が行なっています。また、このスイッチの静音版が Zeal Healios になります。

Gateron Ink Switches は最近発売されたキースイッチで、その品質の高さから注目されています。スムースさでは Tealios に劣るものの、ぐらつきの度合いや音は Tealios よりも良いという評価です。海外では NovelKeys での取り扱いがあり、国内では、ゆかりキーボードファクトリーでの取り扱いがあります。こちらのスイッチの静音版が Silent Ink です。

NovelKeys Cream Switches はポリアセタール(POM)でできたスイッチです。その素材に由来する独特のスムースさと音が特徴です。製造は Kailh が行なっています。海外では NovelKeys での取り扱いがあり、遊舎工房でも取り扱いがあります。

タクタイルスイッチは、 Zeal Zealios 、その静音版である Zeal Zilents が人気です。これも Zeal Generation Inc. の販売するスイッチになります。はっきりとしたタクタイル感があり、スムースでぐらつきが少ないという評価です。製造は Gateron が行なっており、遊舎工房でも取り扱いがあります。重さでいくつかのバリエーションがあるため、好みで選択をしてください。

その他、タクタイルスイッチでは Holy Pandas というキースイッチが取り上げられることがあります。 Holy Pandas は複数のスイッチを組み合わせたスイッチで、独特のタクタイル感と音が人気です。詳しくは きせのんさんの Holy Panda に関する記事 を参照してください。

それから、Zeal Generation Inc. のキースイッチは、いくつかの改修を重ねることがあり、そのバージョンによって打鍵感が異なります。基本的には最新のものが販売されていますが、購入のときには少し注意をしてみてください。

潤滑(lube)

キースイッチを購入したら、まずやることは潤滑(lube)です。潤滑の目的は、キースイッチのスムースさと音の改善です。適切に潤滑剤を塗布することで、押下時のひっかかるような感触がなくなり、金属的で耳障りな音をおさえることができます。

実際の潤滑は手技になりますから、動画の解説もあわせて見てください。

潤滑の基本は、部品同士が接触する部分に潤滑剤を塗布することです。そのときに重要なのは、潤滑剤をつけすぎないことです。潤滑では、少量のグリスを容器のフタなどの小皿にとり、適量を塗布していきます。塗布する部分に爪楊枝の先ほどの量をのせ、それを広げていくイメージです。

特に、後ほど紹介をする Krytox GPL 205g0 という潤滑剤は、うっすらと色が変化するくらいで十分な効果を得ることができます。塗布したものを軽く拭きとるぐらいの方が良いという人もいるくらいです。

スイッチ内部でどの部分が接触するかについては Lubing Switches: Where To Lube をよく確認してください。

潤滑剤

リニアスイッチとタクタイルでは、それぞれ利用する潤滑剤の種類が異なります。リニアスイッチであれば Krytox GPL 205 G0 、タクタイルであれば Tribosys 3203 を購入しておけば、まずは問題ないでしょう。いずれも 遊舎工房Switchmod Keyboardsで購入することができます。

2019年から NovelKeys も潤滑剤を取り扱うようになりました。 CHRISTO-LUBE の潤滑剤は、キーボードコミュニティから新たな注目を集めています。 Switchmod で在庫がないようであれば、こちらの製品を選択することもできます。また、 Cream Switches には CHRISTO-LUBE MCG 112 が合います。 GPL 205g0 や MCG 129 ではなく、こちらの利用をおすすめします。

スプリングは、オイル系の潤滑剤をつかうのが簡単です。Krytox GPL 105 が一般的に利用されています。遊舎工房でも購入することができますすので、入手しましょう。

  • リニア
    • Krytox GPL 205 GRADE 0
    • CHRISTO-LUBE MCG 129
  • タクタイル
    • Tribosys 3203
    • CHRISTO-LUBE MCG 111
  • スプリング
    • Krytox GPL 105

なお、これまで国内ではKrtyoxやTrybosysの潤滑剤が入手しにくかったため Super Lube を推奨する記事が散見されます。しかしながら、現在は Super Lube よりもキースイッチの潤滑に向いている潤滑剤が入手しやすい状況ですので、今からキースイッチのために Super Lube を購入する必要はないでしょう。

その他に必要なもの

潤滑にあたっての道具として、以下のものを購入しましょう。

  • マイクロアプリケーター(ファイン φ1.5mm)
  • スイッチオープナー
  • ルブステーション

マイクロアプリケーターは、筆の代わりに少量の潤滑剤を塗布するのに最適な道具です。また、気軽に使い捨てにできます。 Amazon.co.jp で「マイクロアプリケーター ファイン」で検索すると、いくつもの商品をみつけることができます。1,000円くらいで大量に購入することができますので、筆ではなくこれを利用するようにしましょう。

スイッチオープナーは、3Dプリンタで出力されたものアルミ削り出しのもの などがあります。ピンセットなどでもスイッチを分解することもできますが、効率がぜんぜん違うので、ぜひ手に入れましょう。

ルブステーションは、作業用の台です。なくても大丈夫ですが、あると効率的に作業を進めることができます。このサイトでも レーザー加工サービス用のデータ を公開していますので、どうぞご利用ください。

潤滑の手順

スイッチの分解

まずは、スイッチオープナーでスイッチを開け、パーツごとに小皿などの容器に小分けします。私は100円ショップで買った、ふた付きの容器に入れています。ふたがあれば、数日がかりで作業をしたとしても、ほこりがはいらないので便利です。

スプリングの潤滑

スプリングの潤滑から始めましょう。スプリングの潤滑は、バッグルブ(bag lube)という手法が手軽です。手法といっても、袋にスプリングとオイル系潤滑剤をいれて振るだけですので、簡単にスプリングを潤滑することができます。

スプリングをチャック付きの袋に入れ、 Krytox GPL 105 を少量加えます。スプリング100個で0.1mlくらいが目安ですので、チャック袋の内側に容器の口をつけて、軽くオイルを触れさせるくらいで十分です。その後、チャックをしめてシェイクすることで、スプリング全体がオイルで濡れるようにします。うっすらと湿っているかなという量でも十分に効果がありますから、少量ずつ試してください。

ボトムハウジングの潤滑

ボトムハウジングで潤滑する場所は、ステムが上下するときのガイドとなる両脇のレール部分、ステムの軸が出入りする穴の内側です。リニアスイッチの場合は、リーフとステムの脚とが接触する部分も潤滑します。

タクタイルスイッチのとき、リーフとステムの脚の接点を潤滑するとタクタイル感が大きく変化してしまいます。一般的には潤滑を避けるべきとされています。タクタイルが大きすぎると感じたときには、好みによって潤滑するのもよいとおもいます。

潤滑をしたボトムハウジングはルブステーションに置きます。そして、潤滑したスプリングをセットしておきます。

ステムの潤滑

ステムで潤滑すべきは、両サイドのレールと接触するガイド部分、ステムの脚、下に伸びている軸部分です。ステムの脚と逆側の背面も、一部がトップハウジングと接触するので軽く潤滑してもいいでしょう。

潤滑が終わったら、ステムの脚をリーフ側に向けて、スプリングの上に載せておきます。

トップハウジングの潤滑

トップハウジングで潤滑するのは、ステムと接触するレール部分です。とはいえ、それほど効果を感じる部分ではないので、私は潤滑を省略しています。

その後、スイッチをしっかりとしめて、潤滑は完了です。耳元でスイッチを押して音を確認し、潤滑が十分かどうかを確認します。

その他の調整

スプリングの交換

スプリングの重さは打鍵感と大きく関係してきますので、スプリングの交換も一般的です。スプリングの重さは、一番押し込んだとき(bottom out)の荷重で表します。作動点(actuation point)での荷重ではないので注意してください。

コミュニティでは SPRiT Designs のスプリングが、種類も豊富で定評があったのですが、最近は出荷が安定せず、到着まで数ヶ月以上待つことがあることがあるようです。最近では、TX Keyboard などのショップで、キースイッチ用の高品質なスプリングを取り扱うようになりました。 NovelKeys もスプリングの販売を検討しているようです。

スイッチフィルム

スイッチフィルムはトップハウジングとボトムハウジングの間にはさむ薄いフィルムです。ハウジングの遊びをなくすことで、ぐらつきを抑えることができます。また、打鍵音も改善することができます。

今回、紹介したスイッチはぐらつきが少ないスイッチが多いので、スイッチフィルムは不要であるケースが多いでしょう。